株式会社ディアローグ 代表取締役インタビュー
「美容師になろう!」の目的は人材が集まり育ち永く活躍できる美容業界にする事。そして、表面的な華やかさだけではなく、仕事の本質を大切に理念経営に取り組む企業が増えてきました。時代とともに「物」から「思い」へ価値観が変化した事の現れでもあると思います。「変わる!美容業界」と銘打ったこの特集。
自由が丘、下北沢、戸塚などにて展開する完全個室空間のサロン。一般企業並みの給与体系や福利厚生、手厚い教育環境で「人が辞めないサロン作り」を提唱。業界では数少ない終身雇用企業にチャレンジしている株式会社ディアローグ井口社長のお話を紹介させて頂きます。
株式会社ディアローグ 代表取締役 井口 智明氏「美容業界でも安心してしっかり定年まで働ける」1974年7月長野県生まれ。福井大学卒業後大手ゼネコンへ就職。その後横浜市市役所へ勤務。一級建築士の資格を持ち建築関係の仕事に関わる。2003年29歳の時に独立起業。ゼネコン・公務員時代の経験を生かし、最初から終身雇用の会社経営者を目指す。それには多角化経営が必要と事業計画を立案。初めに着手した事業が美容室経営。また、31歳の時に業界や仕事への理解を深める為に美容師免許を取得。
現在自由が丘、下北沢、戸塚などに7店舗展開。美容室以外に保育園、障がい者施設を経営。別法人で設計事業、不動産事業、翻訳事業なども手掛ける。
最初から終身雇用の会社経営を目指す「何の事業を始めようか」起業を目指していた20代の私はずっと考えていました。私は大学卒業後大手ゼネコン、その後公務員というどちらかと言えば「お堅い仕事」に就いていました。
そんな時美容師の友人が「30歳になるからそろそろ美容師を辞めようと思う」と話すのを聞き、美容業界が社会保険もなく、生涯働く環境もないという事を聞きました。
社会保険完備、終身雇用の環境でしか働いた事のない私には驚きでした。「そんな業界があって良いのか?」
ならば、私が社会保険完備、終身雇用の美容室を作ろう!と思い美容室経営を始める事を決意しました。
当時はそういう美容室は本当に少なく絶対必要とされ成功するだろうと私は確信しました。
3つの対話を大切にしたサロン作りそのような経緯でスタートしたディアローグも創業9年が経過。自由が丘、下北沢、戸塚市など7店舗、スタッフ数80名弱となり業績も黒字経営を続けて右肩上がりで安定し多角化経営の基幹となしています。
ディアローグの理念は文字通り「DEAR-LOGUE」=「対話」です。特に大切にするのは「社員同士の対話」その後に「自分やお客様との対話」がきます。社員同士のコミュニケーションを重視し教育や働く環境を整え、そこに集まるお客様としっかり対話しご満足いただけるお客様を増やして行きます。
サロンが完全個室になっているのもお客様との対話を重視しているからです。また完全個室を利用しアシスタントは営業時間中も練習できるというメリットもあります。そして、自分自身との対話も大切です。なんの為に私たちは働くのか、社会への存在意義を常に意識しています。
多角化経営で終身雇用を実現離職率0%を目指します当社の特徴は美容業界では非常識ともとれる雇用条件です。終身雇用を掲げ、完全週休2日・有給取得率100%、退職金制度と業界でもトップクラスの待遇を誇ります。
終身雇用はイコール「人が辞めない」という事です。美容室経営は人が辞めなければ安定します。人が辞めないよう経営努力していますのでディアローグの離職率はゼロに近いです。
2015年のスタッフ離職率は0%。年間通して新卒・中途ともに0人でした。
私は終身雇用を実現する為に、多角化経営路線を進んでいます。美容師の一人当たりの生産性は良くても80~100万円位。上場企業になると一人当たり1000~2000万円という数字です。上場企業と比較するのは極端としても、美容室経営だけで企業化するのは不可能です。様々な事業の一部門としてならば企業化が可能になるのです。
美容室経営を始めた2年後には、もともと一級建築士の資格を持つ私は設計事業をスタートさせました。自社の美容室の設計・施工も手掛けています。そして保育園、障がい者施設の経営など事業の幅を広げて行きました。障がい者施設は私の故郷、長野県木曽町に建設し、障がい者の生活を応援するグループホームと就労施設を運営しています。施設では木曽檜を使用した幼児用の家具を製作しており、地域の活性化と雇用確保に積極的に努めております。
また多角化経営のメリットに社内転職が可能という事があります。美容師の仕事が続けられなくなった場合でも社内の様々な職種に転職して頂く事により、終身雇用が可能になります。
教育のスタートはマナー・接客講習から美容師の教育においても美容業界では非常識かもしれません。
初めにシャンプーをやりません。美容師である前に一人の社会人です。一般企業と同じように入社後一週間で社会人としてのマナーをしっかり身に付けて頂きます。
ディアローグでは、接客・接遇研修、一般のビジネスマナー(名刺交換、お席への通し方、丁寧語・謙譲語の使い分けなど)について、外部講師を招き年間で最も教育投資します。接遇は完全マニュアル化して一定の水準を保っています。
また、幹部会などでは主に労務関係の話をします。アシスタントの勤務時間に気を使い実働8時間実現を目指します。ウイッグ代や外部講習費は会社負担で、営業中でも個室で練習が可能です。また講習会があった時には代休を取ることが可能。売り上げの上げ方は経営幹部で考えます。「美容師が美容師の仕事に集中できる環境」を作っています。
手に職が付き生涯働ける素晴らしい美容師の仕事多角化経営で様々な職種を作りだして来ましたが、私はやはり美容師の仕事が一番良いと思います。手に職が付くという事は、生きて行く上で一本芯が通りますので自信になります。どんな事があっても私はこの仕事で生きて行ける!それが手に職を付けるという事です。
そして一生働く事が可能です。また、「人のお役に立つ」という点においても素晴らしい仕事です。お客様に喜ばれ感謝され、しかもお金を頂ける仕事はそんなにはありません。
また一人当たりの生産性は当社で約80万円。一般企業の水準から比較すれば低いですが、サービス業のくくりで見ますとかなり生産性は高く一定水準以上の所得を得られるのも美容師です。生産性80万円、完全週休2日制、8時間労働という美容師として働きやすい環境を整備して行きたいと思います。そして多角化経営による終身雇用の実現。それが私に与えられた仕事です。
美容業界が良くなる為に社会保険は加入するべき美容業界が良くなる為にはまず社会保険に必ず加入して頂きたいと思います。また業務委託の働き方は良くないと思います。簡単に申し上げると社会の構造の問題上、業務委託が増えたら日本は成り立ちません。会社があって勤める人がいて税金を納めて年金を払って世の中が成り立つわけです。ひとつの会社の利益の為に社会保険に加入しなかったり、個人事業主として雇用し社会保険や年金を払わない人たちが増える事は美容業界に限らず日本社会にとって良くない事です。
社会保険に加入していなかったら65歳以上になったらどうやって生きて行くのか? 生活保護になるしかありません。生活保護の財源は消費税しかないので消費税が増えたら皆が暮らしにくくなってしまう。生活保護が増えたらもっと貧富の差が広がります。年収の低い方が生活できなくなり、犯罪が多くなるという悪循環が起きます。 マイナンバー制度が始まったとはいえ、業務委託のサロンが増えている現状もあります。わざわざそのような状態を作ろうとしているのは美容業界にとって、日本社会全体にとって良くない事です。
先ほど申し上げた通り、美容師の仕事は良い仕事です。 人工知能が発達しても今後なくなる事はないでしょう。ディアローグはまだ定年退職者がおりませんが、多くの幸せな美容師を育成し、多くのお客様にご満足頂き、社会から必要とされる終身雇用の企業を築き上げたいと思います。
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設計・施工の事業もされている為、取材時作業着で駆け付けられました。「着替えてきますね!」とポロシャツ姿で現れました。「スーツ着ないんですよ」と大変飾らないお人柄。これからの時代の新しい経営者像を感じた時間でした。
(「美容師になろう!」編集長/荒井由美)